【短編】お願い、ヴァンパイア様

 確かに、初対面の女の子を『カワイイ』なんて言い切ってしまう辺り、すこし違和感を覚えるかもしれない。

けど、知らない人だらけに囲まれた中で、情けないわたしを助けてくれた。


 それだけは揺るがない事実なんだ。


「あの、ありがとう……」

 恥ずかしくて俯きながらいった言葉に、彼はぽんと手を肩に乗っけてきた。

そして、当時は肩の下まで延びていた毛先を、その大きな手のひらで優しく包む。



「キミは……ショートヘアのほうが似合うね」


 わたしが髪を切ったのは、その一言だった。


 高校生活2日目にしてわたしはばっさり髪を切り、家族や愛美を含めた昔からの友人からは心配されたけどね。





 そんな翔くんを想い続けて早一年ちょっと。

特段お近づきになれたわけでもなく、遠くで見てるだけに変わりはなかった。



こんな状態に、なにか焦りも感じていたんだ。



 翔くんの隣にいたい。

あの微笑みを受けるのは、わたしでありたい。





 たった小さな欲望の隙間に、あの魔術書が舞い込んできたんだ。