全てがキミだった



公平はそう言って、わたしの手に濡れたハンカチを握らせた。


ひんやりと冷たいハンカチが、とても心地いい。


「冷水器で冷やしてきたから」


公平は、そう言いながら鼻のてっぺんをポリポリとかいた。


その仕草は、公平が照れを隠している時の癖だ。


「あ、ありがと」


あの頃のわたし達は、とてもぎこちなかった。


会話は途切れ途切れで、お互いが照れていて。


その間に、恋愛感情はなかったのだけれど。



いや、わたしにはあった。


今、この瞬間に、わたしは公平に恋をした。


『憧れ』から『好き』に変わった瞬間だった。