「怒られない?」
「誰に?」
「だから、親とか。
門限ないわけ?」
「あるよ」
「マジで?ヤバくね?」
「うん。やばいかもね。
叩かれること確定」
わたしが言っても、公平は帰ろうとは言わなかった。
その代りに公平の口から出てきたのは、
「じゃさ、叩かれること確定なら、とことん遅く帰っちゃえばいいじゃん」
心臓が大きく脈打った。
周りが暗くてよかったと思う。
耳までもが熱をもち、体中が火照ってくる。
プールの水面を見ると、月明かりが優しく揺らめいていた。
「また、伸びてきた」
「何が?」
「髪」
「今度はちゃんと美容室行きなよ。
わたしもう切らないからね」
「なんで?
俺、結構気に入ってたんだけど、あの髪形」
そう言って、公平は自分の前髪を指先で掴んでみせる。


