『へぇ〜、このピックを貰った…って、こ、このピック…』

黒いバンダナを巻いた男はピックを見て驚いた。

『どうしたんですか?』

『いや…何でもない。大切にしてるんだなそのピック』

『はい、お守りですから。それから、もしまたその人に会えたなら、俺は夢をくれてありがとうって言いたいんですよね』

敬大は笑顔で言った。

『そうか…。またきっと会えると良いな』

『はい。じゃあ、ご馳走様です。ありがとうございました』

敬大はそう言って立ち上がり、ギターを持って立ち去った。

黒いバンダナを巻いた男は去り行く敬大の背中をじっと見つめた。

『まさかあいつに…敬大にまた会うなんてな。おっきくなったんだな敬大…。さて、片付けるか』

黒いバンダナを巻いた男は、そう言って後片付けをした。

敬大は自分に夢をくれた憧れのギタリストが、このラーメン屋台の店主だと、この先も知ることはなかった。