月が変わり、今年もあと1ヶ月となった。

ミュージックバトルコンテストのあの日の模様がTVや雑誌で特集を組まれて何度も取り上げられた。

そのせいか、ミュージックバトルコンテストで優勝を果たした敬大はすっかり有名人になっていた。

街を歩けば色々と声をかけられ、数々のレコード会社からは契約話が持ち掛けられた。

そんな敬大が部屋で一人ギターを奏でていると、突然ブザーが鳴った。

敬大はギターを置き、玄関のドアを開けると一人20代後半くらいの女性が立っていた。

『どちらさまですか?』

敬大は女性に尋ねた。

『一色 奈々“イッシキナナ”と申します。初めまして。瑞輝敬大さんでいらっしゃいますか?』

『はい。瑞輝敬大は俺ですが…』

敬大は不思議そうな表情で言った。

『私、清凜総合病院の看護士をしています』

『はい…』

淡々と話す女性に敬大はただ頷いていた。