「そういえば、まだ名乗ってなかったな。
俺はノルバス国の兵士で第一王子付きのマーズレンだ。
君は?」
「私は、ルシル。18よ。
それにしても、今日はなんであんなに街が閑散としているのかしら。不思議ね」
ルシルの言葉に、俺はぎょっとした。
もしや、この娘は、なにもわからずに街をうろついていたのだろうか?
「ルシル。ノルバス国ってわかるか?」
「知ってるよ。カナンの東の軍事大国でしょ?
黒鷲なんとかってあだ名の、王子がいるって」
ほんと、怖いわよね~、
とルシルが付け足すのを聞いて、俺は頭を抱えた。
だめだ。たった今、俺、第一王子付きだって名乗ったのに、
全然理解してない。
やはりただの農民出では、侍女はつとまらない。
家まで送ったら、そうそうに引き返して、ほかをあたろう。


