翌朝、全員がそろって、出発するというだんになって、雄たけびのような悲鳴が轟いた。
「ぎゃあ~。待ってください!!リリティス様の杖を部屋に忘れました!!」
ルシルが大慌てで、部屋へと走っていく。
・・あ、転んだ。
何もない平地で転ぶなんて技は、きっと彼女にしかできないだろうな。
俺はくすりと笑うと、ルシルのほうへと駆け出した。
「待てよ、ルシル。俺も行こう。慌てなくても大丈夫だから」
鼻を押さえるルシルの様子がおかしくて、俺は思わず吹き出した。
「もうっ!笑わなくてもいいでしょ」
ルシルは昨日泣いていたのが嘘のように、いつもと変わらない様子だ。
でも、他の誰が気づかなくても、俺だけは覚えておこうと思った。
ルシルが、本当は、とても繊細な女の子だってこと。
自分の食べ物を人に分け与えられるやさしい女の子だってこと。
その弱さを、決して人には見せないって事。
それはきっと、長女に生まれた彼女が、無意識に身につけたことで・・。
もう、あんなふうに・・二度と泣かせたくない。
俺は、ルシルの赤い鼻を指でつつきながら、二人で肩を並べて歩いた。
<つづく>