正月三日、真っ青に澄み渡った根来の空。



畑の上にそびえる小高い崖の上から凧が上がった。


崖下から時を得た上昇気流に乗って、凧は勢い良く天空に舞い上がる。

みんなが見守る中、天空で三つの凧が勢いよくぶつかった。



<ガシッ、ガン……>

と鈍い音が響く。



「うおぉ~」



その度に歓声があがる。

引き綱の加減と、下から煽る気ままな風。

凧のぶつかるタイミングはなかなか計れない。


<ガッ……>


一段と大きな音とともに白い文字の凧が舞い落ちてきた。



「勝負は時の運じゃて……ガハハハハ」



と、白い歯を見せながら心波が笑っている。

残った二つの凧は、タイミングが合わずなかなか戦えない。

みんなが焦れて、綱を手繰るもその距離は縮まらない。

その時、みんなの頬を切るような鋭い突風が下から吹き上げた。

戸隠のお爺様の凧が、長の凧を下から突き上げる。


<ガシッ……>


凧に傷がついたのか、長の凧がバランスを崩してクルクルと弧を描きながら舞い落ちていく。


「うおぉ~ 今年は戸隠の主の勝ちじゃ!」


青い空を背景に、一騎残った、お爺様の赤い鳥居の凧が悠然と天空を舞っていた。