長の手綱の一振りで疾風が再び歩み出した。

確かに、荷台よりは幾分かましだ。


「夢子ちゃんは、風ちゃんの小さい頃によう似とるのう。

色が白くて、ぽっちゃりして」

「そ、そうですか?

家には母の小さい頃の写真とか、ないから……」

「根来のもんは、写真とか嫌うからのう、戸隠の家にもなかろうて……

じゃが、わしははっきりと覚えとる、風ちゃんの可愛い笑顔をのう。

家の未来と風ちゃんは幼馴染みじゃったから、風ちゃんはよく家に遊びにきたもんじゃ。

だから、わしも風ちゃんを、娘のように思うとった」


長は手綱をしっかりと握り、前をじっと見つめながら言葉を繋いでいた。


「風ちゃんが、戻らんかった時は、わしも辛かった……」

「えっ? だって、母達は駆け落ちしたんでしょ?」

「あの先生が夢子ちゃんの父親になることは、わしらにも分かっとった。

じゃが、風ちゃんは戻ってくる筈だった。

戻ってくるべきだったんじゃ」


「それはどういう意味ですか?」