「ふぅっ……」



漆黒の髪を身体に巻きつけるように、紫苑先輩が水の中から現れた。

手に一杯何かを抱え、立ち泳ぎでゆっくりとこちらに向かってくる紫苑先輩。

再び足を浜につけ歩き出したその腕の中には、黒い棘のある物体がいくつか。


「今年も豊作ね。私の大好物なの」

「わぁ、紫苑先輩、それ、もしかしてウニですか?」

「もしかしなくても、ウニよ。ここは家の浜だから、採り放題よ。下まで潜れればの話だけど」

「見事な潜りですね」

百地が賞賛の眼差しで紫苑先輩に声をかけた。

「ここは水深何メートル?」

「この入り江は中央あたりから急に深くなるの。

水深5メートルくらいかしら。

その先は更に深いわ」

「水深5メートルの深さまで一気に潜るには、無駄な水の抵抗を一切排除する必要がある。

つまり、垂直に水に潜らなくてはならない」

「その通り。そうしないと下まで届かないの」

「あなたは、それをいとも簡単にやってのけた」


「ふふ、だって、あたしウニが大好物なの、食い意地がはってるのよ」


紫苑先輩が嬉しそうに笑った。