イチ*コイ




「っくそ…!」


 ケータイを出して振りかぶる。

 目の前には海。

 …けど、投げるなんて出来なかった。

 ここにはたくさん、美華との思い出がある。

 自分から捨てるなんて、出来なかった。


「う…っ」


 流れた涙が、画面に落ちた。

 捨てるなんて、出来ねぇよ……。





 君は感じたことがあるだろうか?

 この、心が震える感覚を。

 不確かな物でしかない心が

 君を想って確実に震えた。

 真剣な横顔も困った顔も笑顔も、泣き顔も

 俺を夢中にさせるものだと、わかっているのだろうか?

 愛してる、愛してる…だけど離れるよ。

 君を想って…切ない気持ちを抱きながら。







―――――







 卒業式、遠くからあいつを見るのが切なくて目を逸らした。

 今が幸せならそれでいい…。

 お前はそう言ったよな?

 けど、1度幸せを感じたら…だめなんだ。

 悪いことを感じすぎる。

 名前を呼ばれて返事をするあいつの声を背中で感じた。

 もう本当に終わりなんだな…。