「…あたしね、地球上の生物で…人間が、1番嫌いだったの」

「――は?」


 誰よりも優しい、美華が?


「確かに素晴らしいことをした人もたくさんいるけど…でもそれ以上に、人は醜い。
 力を求めて…戦争をして、人を…殺して。
 自分のしたことを棚に上げて人を責める」


 美華の言う言葉は真っ直ぐで、純粋で…だからこそ、否定出来なかった。

 俺だって…美華の言う、醜い人間の1人だから。

 人は自分の罪を認めたがらない。

 だから他人を非難する。

 ほら、自分だけじゃないと。

 他人も酷いことをしていると、安堵するんだ。


「あたしはそんな人間になりたくないって思った。
 傲慢な人間には絶対にならないって。
 …でもね、あるとき気付いたの」

「…ん?」

「…あたし、普通に蚊を殺してた。
 どの命も同じって言いながら、無意識に殺してたの」

「そのくらい…」


 普通だろ?

 蚊を見て殺さない奴のほうがおかしい。

 けど美華は首を横に振った。


「変な話だけど、あたしも“人間”だったの。
 …傲慢なんだよ」