俺の記憶の中のアイツは

 いつもどこか困っていた。

 けど笑った顔も怒った顔も泣き顔も

 俺を夢中にさせるものでしかなかった。

 ケータイにつけられたシルバープレートのストラップ。

 ずっと、ずっと一緒にいられると思ってた。

 まさかお前があんなこと考えてたなんて…

 あの頃の俺は知らなかったんだ。

 普通に考えればわかることなのにな。

 初めて感じる幸せに溺れていたんだ。

 幸せのあとには不幸が起こること、知っていたはずなのに…

 気付かなかったんだ。

 今更だけど、1人で悩んでたんだよな?

 気付かなくて悪い……。

 アルバムの中のアイツを撫でた。

 変わったようで、変わってない。

 いつでもお前は困ったように笑って

 それでも俺が笑ったら笑い返してくれるんだ。

 蒼く澄んだ空を見上げると、すぐにアイツの笑顔が思い浮かぶ。

 本気で言われるまで気付かなかった。

 違和感は感じていたのに…わからなかったんだ。

 お前が1人で悩んでいた…その内容を。

 近付いてくる暗雲に気付かずに。

 俺はただ、お前を思っていた。