タリー村の酒場兼宿屋の2階の男が泊まっている部屋は暖炉の火が消えていたので、寒々していた。
男は左手で薪をくべ、火をおこす。

左利きだ!

ローズはぼんやりとそれを眺めた。

男は暖炉のそばに椅子を二つ持ってきて、ローズに座れと示す。

「飲むか?」

男は革の袋に入ったものをよこす。

ローズは受け取っていっきにあおった。

強いタリー酒だ。

「…おれの名前はバード、鍛冶師をしている。見習いをしてた頃、今は亡きノースウエイン国の王家に出来た剣を届けにいった。そこで、王と妃にあった。妃は今のお前とそっくりだった。
金色の髪と黒髪の違いはあったが、大きな深い緑の瞳が同じだ。
それに、王女は隣国のスサイン国に逃れたのち諸国を放浪してるって噂だ」

「……そんなに噂になってるの?」

「あぁ、けっこうな噂だ。だが、王女の顔や姿は知られてないがな。…タリー酒を」

ローズは抱えていた袋を渡す。

バードはゴクリと飲む。

「俺はアレン国に納品に行くところだが、どうだ一緒に行くか?酔っぱらいぐらいならいいが、パライン国の追ってなら困るだろう?一人より二人の方が心強いだろうし、俺はそこそこ剣が使えるぜ」