「心臓の病気だった。移植しか手がなくて、法律が変わって十五歳未満の移植が認められたけど」
病気が分かって何を感じた? 不安から解消された喜び? 新たな不安が生まれた絶望?
「未成年の臓器提供者なんてたかが知れてる。まして僕みたいな病気の子供がたくさんいるんだ。順番待ちの状態で、僕の番が来るころには……ね」
―――大翔の背負っているものを、俺はなんも理解していない。
「だけどね、実感なんて湧かなかったんだ。僕が重い病気なわけないってね。でも……」
この部屋に入ってから、初めて大翔がこちらを向いた。
前髪で細かい表情は読み取れないが、
「お母さんが、お見舞いに来なくなったんだ」
その瞳は歪んでいて、憂いを帯びていた。
「ううん、毎日は来てくれた。でも心ここにあらずって感じで、お見舞いに来てもすぐに帰っちゃうし。お父さんなんか殆ど来なくなっちゃうし。
嗚呼、僕はいらない子なんだ。どうせ死んじゃうのにお金だけかかって迷惑なガキだなーて思ってるんだ。きっとそうだってね」