虎ちゃんの前へと足を運ぶ。


ワックスでセットされた髪は掻いたせいで乱れているが、構わず頭を掻き続けている虎ちゃん。


「実は……」


手の動きが止まり、視線がぶつかる。


澄んだ漆黒の瞳に吸い込まれそうになったが、両手をきつく締め堪えた。


嫌な予感がする。虫の知らせを肌で感じた。


「実は……」


一呼吸おき、虎ちゃんが言う。


「嘘なんだよね、全部」


春の小風のような、柔らかい台詞だった。


「……へぃ?」


「俺が光のこと好きだって言うの、全くのデタラメなんだよね。ハハハ」