心苦しいけど、これも虎ちゃんのためなんだ。
俺なんかに幻想を抱いてはいけない。
どこをどうして俺を好きになったのか不明だが、俺と虎ちゃんじゃ釣り合わない。
「虎ちゃ」
「ゴメン、光」
声が被った。
視線を床に落とし、後頭部を掻きながら俺の言葉を遮る。
両眉の端を下げながら、申し訳なさそうな表情を俺に見せた。
後頭部を掻く行為。言い出したいのに言い出せない虎ちゃん特有の癖。
互いに視線を合わせぬまま、騒がしい朝の教室にしばしの沈黙が続く。
まるでこの空間だけが世界から切り離された感覚に陥り、椅子に座っているのに足元がグルグルと回転する感じがした。
意を決して音をたてずに立ち上がる。