考え出すと不安材料ばかり頭に浮かぶので、自分に悩む時間を与えないように、帰国後勢いで事を進めた。二人の留学先は決まった。あとは書類の手続きを済ませればいい。子連れ留学という特殊な状況の為、子供のビザの問題などで、つたない中国語で何度も国際電話をかけなければいけなかった。
 中国領事館で大学側に「子連れ留学を許可します。」と一筆かいてもらうよう言われた。そうすれば、私と同じ期間のビザが取得できるという。大学側に伝えると、
「大丈夫、こちらに来ればすぐに延長できるから、心配しないで。」
と言われた。いくら大丈夫と言われても、ロクに中国語も話せないので、できることはなるべく国内で済ませようと思っていた。結局、大学側に押し切られて、子供のビザは現地で延長することになった。

 相変わらず別居生活が続く中、留学準備は着々と進んでいた。が、やはりすんなりとはいかなかった。出発の一ヶ月前、父が突然倒れた。救急車で運ばれ即、手術。十数年前にドクターストップがかかっていたにもかかわらず、吸い続けたタバコが父の肺に穴を開けたのだった。幸い手術は成功、入院も2週間で済んだ。
 父の体も心配だったが、目前にせまっていた留学の方も心配だった。退院の日、車の中で父に聞いた。
「あたし、行ってもええん?」
「行かんといていうたら、行くのんやめるんか?」
「・・・・・・飛行機のチケット、もう取ったし・・・」
「そんなんやったら、最初から聞くな。」
(ごめん、親不孝な娘で。)
心の中でつぶやいた。