「ふっ!!」

ゲルゴアが踏み込んだと同時に、アストンの術では傷すら付かなかった床が弾け飛んだ。

アストンはゲルゴアの姿を見失う。

ゲルゴアの手は身体の大きさとは相反し、老人らしい小さなしわくちゃな手をしていた。

その拳がアストンのノーガードの腹部を激しく打つと、拳の大きさの数倍の範囲の激痛を芯に受けながら吹き飛ばされてしまった。

空を舞うアストンにゲルゴアの容赦ない追撃が襲う。

「ほっ!!」

掛け声とともに繰り出された蹴りはアストンによって受けとめられた。

「わしの蹴りを止めるとは…正直ビックリじゃ。」

そんなことを言いながらゲルゴアの表情は微塵も動いてはいなかった。

「はぁ。はぁ。」

まるで虫の息とでも言うのだろうか。

アストンの小さく早い呼吸が辺りに広がる。

そして何故かアストンの背中と手の甲は驚くほどに傷ついていた。

「わしの攻撃を相殺するために、詠唱なしの呪文で逆方向から自らを攻撃したのか…なんとも無茶苦茶じゃが、もしそれをしていなかったら初撃で内蔵は粉砕し死んでいただろう。見事じゃ。」

ゲルゴアは受けとめられた足を引くと、アストンを見た。

今にも倒れてしまいそうだ。