マールは俯いたリリーの肩をポンと叩くと顔を上げさせる。

「あのねぇリリー。私がそんじょそこらのヒーラーだと思ってんの?」

「え……じゃあ。」

マールは頷くと詠唱を始めた。

今まで見てきた術の中でも詠唱時間が長く、日常的に使う言語ではない。

どうやら古代語のようだった。


マールは詠唱を続けながらまずはカムイに突き刺さっている牙を抜いた。

抜いた部分から血が飛び出す。

それにも動揺することなく詠唱を続けていく。

「この者に取り付いた悪しき力を浄化せよ『クラフィケイション』」

マールが傷口に手を置くとカムイの身体が激しい痙攣を始めた。

本来術とは言霊を唱えた時点で術としての効果を発揮するのだが、この術は詠唱を続けることでその効果を発揮する類のものだった。

緑色に腫れあがった部分が線香花火のように光り、辺りに弾け飛んでは消えていく。

その光が納まるとカムイの痙攣も止まり顔色が徐々に回復していった。

「………ふぅ。これで大丈夫。半日くらい起きないと思うけど毒は浄化したから安心して。」



リリーがカムイに泣き崩れる。

マールは二人だけにするためにその場を離れようとしたが、さっきの術でフォースを使いきってしまっていたのだろう。

足がもつれて倒れそうになる。

「よくやったね。カムイを助けてくれて礼を言うよ。」

「……どういたしまして。」

倒れそうになったマールをニーガルが受けとめ、肩を貸した。