「お母さんっ」

サラが言うと、母親は、サラに

「ちょっと待っていなさい」

と言って駆けていった。


サラはそれからうずくまって待った。


時々、村のほうから悲鳴が聞こえて、サラは耳をふさいだ。




しばらくすると、前方から誰かが来るのが見えた。


(お母さん………っ!?)


そう思ってサラはすこし立ち上がってすぐにうずくまった。


(カナルだっ…………)


背の高い草のすきまからサラは覗いた。


そこには、黒い髪をしたカナルと、赤い髪をしたナズルがいた。




そのナズルは………。




(うそっお兄ちゃん………っ!?)


サラの兄、ラルクだった。

カナルはラルクを蹴飛ばし、あざ笑った。


サラは涙を流しながら、自分の口を押さえた。






カナルは最後にラルクの脳天に斧を突き刺した。




サラは心の中で悲鳴を上げ、声を殺して泣いた。そして、最愛の兄、ラルクを殺したそのカナルの顔をしっかりと目に焼き付け、走ってその場から走って逃げた。




サラは走った・・・・。



走って走って、林の中に飛び込んだ。




そして走った。




走るうちにサラはラルクを忘れた。




走るうちにサラは母親を忘れた。



何もかも、林の向こうに捨て、





最期は、サラは自分の名前さえも忘れ去っていた・・・。