その手に触れたくて


「俺、お前に何かしたか?」


ため息交じりに吐かれたその言葉にあたしは咄嗟に首を横に振った。


「じゃあ、何で話さねぇんだよ」

「別に…」

「は?」

「だから別に――…」


だから別に何でもないって言おうとした瞬間、あたしの頬に冷たい何かが滑り落ちた。

手を頬に持っていき触れた時、ポタポタと落ちてアスファルトを濡らしていく雨音が耳にスッと入り込み一瞬にして大粒に変わっていた。


「くそっ、」


小さく舌打ちをした隼人は、自転車の籠に入っているあたしの鞄を取り、それと同時に反対側の手であたしの手首を掴んだ。


「えっ、」


突然の出来事に訳わかんなくなったあたしは、隼人に手を掴まれ、


「乗れ」

「えっ?」

「早く乗れって。濡れるだろうが」


訳のわからないままあたしは原付の後ろに跨った。