奪う…

さっき夏美が言った言葉が頭の中を駆け巡る。


奪えるのなら奪いたい。でも、あたしは彼女が居る男の人を奪う気にもならない…

いつか隼人は言ってた。


“人のもんとんだから、そんくらいの覚悟は出来てんだろ”って…

あたしには覚悟なんて出来ない。って言うか、覚悟ってどんな覚悟なんかすらも分かんない。


だから、

もう…いいんだ。


「別れるまで待つか…」


ポツンと呟かれた夏美の同情気味た言葉に、あたしは首を横に振る。


「ううん、もういい。一人でため込んでいたから気分も優れなかったけど、夏美に言ったらすっきりした。だからもういい。こんな気持ち忘れちゃうから平気」


あたしは曖昧に笑って、グラスに入っている半分くらいのアイスレモンティーを一気に飲み干し、その事について夏美はもう何も言わなかった。


しばらく他愛もない会話をした後、あたしと夏美はカフェを出て別れた。