その手に触れたくて


「響もさ、あー言う事あったんだ」


凛さんは何故か思い出した様にクスクス笑い始めた。

その横にいた悠真さんは少し首を傾げながら口に咥えた煙草に火を点けた。


「あー言う事?」

「うん…。美優ちゃんって居たでしょ?そのお兄さんに響も殴られてた事あったなーって思ってね」

「美優さんのお兄さんに…?」

「そうそう。当時の響、荒れてたからねぇ…だからお兄さんも響の事を許せなかったんだと思うの」

「……」

「でも美優ちゃんのお兄さんは響を恨んでないって言ってた」

「……」

「けど…響はまだ過去を引きずってるけど…。だからさ、美月ちゃんと隼人くん見てるとホントに被っちゃうんだよ」

「……」

「あの頃、ほんとよく響も殴られてたなーって…ね、悠真?」


そう言った凛さんは悠真さんに視線を向ける。

そんな悠真さんは、


「そんな事もあったな」


思い出したかの様に小さく呟いた。


「だから響、言ってたの」

「……」

「あの時のアイツの兄貴の気持ちが今凄い分かるってこの前言ってた」

「……」

「だから美月ちゃん。響はちゃんと分かってるよ?」


“美月ちゃんの事…”


付け加えられた言葉に少し胸を打たれてしまった。

でも、そんな事今更聞いたって、もう何にもないんだ。


もう、終わったんだから今更どうこう言っても仕方がないんだ。