その手に触れたくて


隼人はそれ以上何も言わなくて、だからあたしも何も言えずにいた。

歩く歩幅があまりにも小さかった。


でも、そんなあたしに合わせるかの様に隼人はゆっくり歩いてた。

だけど会話なんて全くなくて、だから余計に何て言ったらいいのかなんて分からないまま家に帰ってた。

隼人と別れて帰った後は変な胸騒ぎばかりが漂ってた。


帰ってきて良かったの?とか、まだ居たほうが良かったんじゃない?って言う余りの矛盾の声。

頭の中で駆け巡るその言葉さえ、もう何なのか分からなかった。


週末を挟んだ次の月曜日。

やっぱりそこには隼人の姿なんてなかった。


その次の日だって、その次の日だって姿を現す事なんてなかった。


「…美月ちゃん?」


久々だった。

それから数日後、学校帰り家の真ん前で凛さんの声を聞いた。

俯いていたあたしはゆっくり顔を上げる。


そしてその先に見えたのは悠真さんだった。


「おかえり」


そう言ってくる悠真さんにコクンと頷く。


「大丈夫?」

「…え?」


続けられて言われた言葉にあたしは思わず首を傾げる。


「あー…ほら。美月ちゃんもだけど、ほらアイツ…橘」

「あー…」


まさか悠真さんの口から隼人の名前が出るなんて思ってなかったから思わず曖昧な呟きをしてしまった。