その手に触れたくて


電話もしてなければメールすら返していないから夏美が来てもおかしくはなかった。


「ごめんね、あいつ全く顔出さねーんだよ」

「そうですか」

「何かあった?」

「いえ、あたしにも分かんなくて」

「そっか。まぁ、ゆっくりしてって」


パチンと微かに響いた音とともに部屋の中に明かりが広がる。


「すみません。ありがとうございます」


バタンと閉じたのはお兄ちゃんが部屋から出て行った証。

布団に潜ってるあたしに聞こえたのは夏美の深いため息だった。


「…美月?」

「……」

「どうかした?」

「……」

「別に話したくなければ話さなくていいよ。けど返事くらい返してよ。じゃなきゃ、心配するから」

「……」

「隼人さ、来てるけど機嫌悪いの。何も言わないし何も話してくんない」

「……」

「ねぇ、美月?」


あたしの身体を軽く揺する夏美は困った様に息を吐き捨てる。夏美はきっと困った表情をしてると思う。

そんなの見なくても分かる。

本当はこのまま隠そうと思ってた。でも、時間が経つ事にそれじゃ何故かダメだと思った。


だからどれくらい無言を付き通したのかも分かんないくらい時間が過ぎた時、あたしはゆっくりと布団を剥ぎとり顔を出した。