その手に触れたくて


「…美月?もう7時だよ?」


ノックの音と聞こえるのはママの声。

返事をしない所為か、ママはドアを開けて入って来る足音が聞えた。


「美月?どうしたの?」


布団に潜るあたしの身体を軽く揺するママ。


「体調悪い」

「何?風邪?」

「そうかな。頭…痛い」

「病院行きなさい。学校には連絡しとくから」

「うん…」


ママが仕事に行ってからもずっと布団の中だった。声を出す気力も、動く気力も全部全て何もかもなかった。

その一日はほぼ布団の中で過ごし、半分は眠ってた。少しはスッキリしたけど心ん中は未だにスッキリしない。

何度か鳴っていた携帯が、ふと気になりあたしは夜になって初めて開ける。


メールの受信は夏美で、“どうした?”“大丈夫?”“風邪?”そんな内容が何通も入っていたけどあたしは返信しなかった。

結局、次の日もその次の日も体調が悪い理由で休んだ。


そんな休みすぎた金曜日の夜だった。


「おい、開けるぞ」


ノックをしないままドアを開けたのは見なくても分かるお兄ちゃんの声。


「お前、いつまでそーやってんだよ」

「……」

「夏美ちゃん、来てるぞ」


その言葉でドクンと胸が高鳴った。