その手に触れたくて


制服を全部脱ぎ捨てあたしは何もかも忘れるようにシャワーを全身に浴びた。

頭上から落ちてくるシャワーの勢いがあまりにも激しくて、涙とともに落ちていく。


悔しくて、寂しくて、悲しくて、悲痛に漏れる泣き声はシャワーの音ではっきりとは分かんなかった。

シャワーを浴び終えて服に着替えたあたしは洗面台に手をついて俯く。目が腫れてる所為なのか、寝てない所為なのか目が重い。


「しんどいのか?」


不意に聞こえた声にビクンと肩が上がり、俯いたまま視線を向けると、お兄ちゃんの足が見えた。


「別に…」


素っ気なく返して足を進ませるあたしの腕をお兄ちゃんはグッと引っ張る。


「お前、何かあった?」

「別に…」

「あっそ」


投げやりになって返すお兄ちゃんはあたしの腕を払い、水を出す。その流れていく水の音を聞きながらあたしは階段を駆け上がった。

不満を吐き捨てる相手なんて誰も居ない。そんな相手はお兄ちゃんじゃない。こんな事、言えない…と言うか言いたくない。

言いたいのであれば、隼人に言いたい。まだ、納得さえも出来ないまま別れてしまった事に不満をぶつけたい。


そもそも別れてるんだろうか。それさえも分かんない。隼人の一方的だけにあたしはまだ別れてなんかないって思ってる。

でも、それが隼人からしたら重いのかもしんない。


あの、隼人が笑った笑みが忘れられない。隼人に撫ぜられた頭の感触が忘れられない。幸せはこんなにも早く消え去るなんて思いもしなかった。