その手に触れたくて


そのあたしの声に気付いた隼人はゆっくり視線を上げた。

そのあたしを見つめるその表情が何とも言えないほどの無表情だった。


「何?どうしたの?」


続けて言葉を出すあたしに隼人は一旦視線を下げる。下げてすぐ深い息を吐き出した隼人に何だか嫌な予感がした。

来て数分、未だに沈黙を続ける隼人にあたしの表情が少しづつ曇るのが分かる。


ただ俯いてばかり居る隼人の前に立つあたしはその姿をジっと見つめた。だけど刻々と時間が過ぎた時、


「…別れよ」


静まり返った公園に秘かに聞こえた、その隼人の言葉に耳を疑った。


「…え?何?」

「だから別れよって」

「え、ちょっと待ってよ。ごめん、言ってる意味が分かんないんだけど」

「じゃあ、どう言ったらいい?」

「どうって…」


そう言ってあたしは息を飲み込む。


「別れよのほかに何もねーじゃん」

「そー言うんじゃなくて、何で急にそんな事を言われるのか分かん…ないよ」


あまりの突然の言葉に息さえもしずらくなった。呼吸が乱れる。心臓がバクバク言って、今にも息が止まりそうな感覚に襲われる。


「前からずっと考えてた」

「ずっと前って…別れる事を?」

「あぁ」

「どうして?理由は?」

「もう、疲れた」

「え、何それ」

「お前と居る事に疲れた」

「待ってよ。あたし、隼人に何かした?そりゃあ、色々迷惑掛けたかも知んない。でも、でも何でそーなんの?」


俯いて話し続ける隼人の腕をギュっと掴んであたしは激しく揺する。その揺れに隼人は少しのシワを眉間に寄せた。