その手に触れたくて


「はい」

「あー、美月?」

「うん」

「ねぇ、もう大丈夫?良くなった?」

「うん、大丈夫だよ」

「ならいいけど」

「夏美、何かあった?」


電話口に耳を傾けていると、ガチャっとドアの音でそっちに視線が行く。入って来た隼人は一瞬だけあたしに視線を向け、タバコを口に咥えた。


「何かあった…って、それ聞きたかっただけ。昨日、隼人と行っちゃうから電話出来なかったんだよ」

「あ、そっか。ごめんね」

「別にー。んじゃ、またね」

「うん」


携帯を切った後、「夏美?」と分かり切った様に隼人は口を開く。


「うん、大丈夫って」

「そっか。つか、美月どーする?」

「うーん…一旦家に帰る。ママに何も言ってなかったし」

「は?お前何も言ってねーの?」

「いや、泊まるって言ってなかったの」

「あ、そっか。じゃあ、とりあえず送るわ」

「うん」


その後は隼人に家まで送ってもらった。隼人と別れてから家に入ると休みであろうママとリビングで出会ったけど、“おかえり”と微笑んで言ってくれただけだった。

だから凄く安堵してしまった。

だけど、そんな浮かれて浮かれてしてた自分は馬鹿だった。隼人とたかが一日一緒に居れた事に浮かれてた。


このまま何もないってそう自分の中で決めつけていた。


そう、決めつけていたんだ。

何もないって…