その手に触れたくて


直ぐに聞こえて来たのは隼人のため息。

顔を顰める隼人は咥えていたタバコを吐き出し、溢れ返った吸い殻をゴミ箱に捨て、その何もなくなった灰皿に灰を落とす。


「…隼人?」

「うん?」

「大丈夫?」

「何が?」

「電話」

「あー…うん、大丈夫」

「ホント?」


不安そうな声で言うあたしに隼人はフッと口角を上げて笑う。


「美月、気にしすぎ」

「だ、だって…」


隼人はいつだって急だ。

それ以上何も言わせないかの様に、あたしの唇を塞ぐ。あたしの悩んでる事を全て掻き消すように隼人は激しく唇を交わす。

さっきまで吸っていたタバコの苦い味が、あたしの口内広がっていく。

もう、何も考えたくない。そう思う程、頭の中が真っ白になってた。


「…美月?」


ほんの少し動けばお互いの唇がまた重なり合うんじゃないかってくらいで隼人はあたしを見つめそう囁く。


「うん?」

「…ごめんな」

「え、何?」

「色々と」


そんな悲しそうな、切なさそうな顔であたしを見ないでよ。


「隼人?」

「今日、誰もいねーから」


もう一度重ね合わした唇から、あたしの甘い声が微かに落ちた。