その手に触れたくて


はぁ…っと深いため息を吐き捨てた隼人は腰を下ろすと、咥えたタバコに火を点けて視線を落とした。


「…隼人?」

「うん?」


下げた視線が一瞬にしてあたしに向く。


「もしかして疲れてる?」

「うん?何で?」

「何かそんな感じ」

「いや、そんな事ねーけど」

「そっか」


そう小さく呟いた時だった。静まりかえった部屋に秘かに聞こえてくる振動音。

思わずその音に反応すると、隼人は一瞬顔を顰めてポケットから携帯を取り出した。震える音とともに光るイルミネーション。

画面を見た隼人は、「ごめん」そう一言だけ言ってあたしに視線を向けた。


「ううん」


首を振ったあたしを見た隼人は携帯を耳に当てる。


「はい」

「あー俺だけど、お前今から来れる?」


自棄に静かな部屋に電話口から洩れて来た誰か分からない相手の言葉にドクンと心臓が波打った。


「あー…悪りぃ。ちょっと無理」


隼人を見てるとチラっとあたしを見た隼人と目が合った。だから何となく見ちゃいけないような気がしてあたしは咄嗟に視線を落とす。


「あ?無理?何で?」

「今、女と居っから」

「あー…」

「つか、また後で掛けるわ」


そう言った隼人は一方的に切ってパチンと携帯を閉じた。