その手に触れたくて


「美月、あっち行こうぜ」


隼人が指差す方向に頷き、歩いて行くと、ほんとにほんとに見違えるほどの別世界が周りの風景を見事に変えていた。


「やっぱ綺麗だね」

「あぁ」

「ねぇ、隼人?」

「うん?」

「また来ようね。これから温かくなるしさ」

「……」

「…隼人?」


返事がない隼人を見上げると、ふと見たその横顔があまりにも切なさそうに見えた。街並みを見渡すその隼人の表情が悲しそうに見えたのは気の所為なんかじゃない。

ここ最近、たまに見るその顔に、あたしは握っていた隼人の手から離し、あたしはそっと肩を揺すった。


「うん?」


そう低く呟く隼人に、「どうしたの?」そう不安げに言葉を吐き出す。


「何が?」

「うん、何かボーっとしてたから」

「そうか?何もねーよ」


そう言った隼人はさっきとは打って変わって表情を変え優しく微笑んだ。


「ほんと?」

「あぁ」


隼人は芝生の上に座り込んだと思うと背中を芝生にくっつけて寝転ぶ。その姿を見たあたしも同じように隼人の横に寝転んだ。

寝転んだ先に見えるのは空一面に広がる輝きの光。数えたってキリのないその光に吸い込まれそうになる。


このまま時間が止まってくれたらいいのに。ってそんな事を思った。