その手に触れたくて


「じゃあ、決まり」


隼人が跨る自転車の後ろにあたしは座る。

隼人の腰に回したと同時に隼人はペダルを踏みしめた。


久々なこの感触に嬉しさを増す。暫く隼人が自転車を漕いで着いた場所は、ホントに久しぶりの階段がずっと目の先まで続いている所だった。

見上げてすぐ、深いため息をつくあたし。


「また、階段か…」


思わず目を瞑りたくなる様なこの階段に、ポツリと言葉が漏れた。と、同時に目の前に差し出されたのは隼人の手。

その隼人の手にあたしは自分の手を重ね、口角を上げる隼人に微笑んだ。


「大丈夫か?」


半分まで辿りついた時、息を切らすあたしに隼人はそう問い掛ける。


「うん、大丈夫」

「ちょっと休むか?」

「ううん。平気」


不安だった朝からでは考えられないほどの、喜びを感じる。

あんなに頭が痛かったのも、今では嘘のようになくなってる。


不思議。


その凄い不思議な感覚にあたしはきっと溺れてた。


「もう少しだから」


隼人と手を繋いだまま階段を上るあたしの息は、少し荒くなってて、その隣に居る隼人は急ぐ事もなくあたしの歩幅で歩いてくれてた。


「やっと、着いたよー」


最後の階段を踏みしめた時、思わず零れてしまった感動の言葉に凄く嬉しくなった。