その手に触れたくて


「ねぇ、お兄ちゃん…」


なんの返事もないお兄ちゃんに、もう一度そう言ってあたしは身体を起す。視線の先に見えるのはいかにも無視してますって感じの表情をしたお兄ちゃん。

思わず深いため息を吐き捨てた時、


「あ?何?」


不機嫌と言ってもいいような低い声で返された。


「あのさ、」

「あぁ」

「隼人の事なんだけど…」

「……」

「ありがとう」

「……」

「色々…」


助けてくれたり病院に連れて行ってくれたり…色んな事に対してのありがとうだった。


「俺に言うなよ」

「え?」

「だから俺に言うな。凛に言え」

「凛さん…?」

「あぁ」

「何で?」


不思議で不思議でたまらなかった。どうしてこの場に凛さんが出てくんのか分かんなかった。

でも、この事でお兄ちゃんと凛さんは喧嘩みたいな感じになってたのは間違いなかった。


「アイツに聞け」


お兄ちゃんはそれ以上何も言わなかった。そして吸い終わったタバコを消しリビングから出て行く。そんなお兄ちゃんの背後を見つめたまま首を傾げる事しか出来なかった。