その手に触れたくて


「何?二人とも…喧嘩でもしたの?」


ビールを口に含むお兄ちゃんとあたしを交互に見つめるママは何も思っていない様にクスクスと笑みを漏らしそう声を掛けてくる。


「ねぇ、響?」


続けてママの口から出たのはお兄ちゃんに問う言葉。

だけどお兄ちゃんは、


「別に」


素っ気なく返して、タバコを灰皿に磨り潰した。


「ふーん…」


ママは納得がいかないような呟きで言葉を紡ぐ。

小さくため息を吐き捨てたあたしは視線を逸らしてソファーに横たわった。


微かに耳に伝わってくるテレビの音。ママがカチャカチャと音を響かせながら料理をする音。そしてそれに紛れてお兄ちゃんが新たなタバコに火を点ける音。

正直、何も雑音は耳には入れたくなかった。


居心地が悪い。…悪すぎる。


テレビの内容なんか全然分かんなかったけど視線はテレビに向けてた。暫くするとママがリビングから出て行った所為で、もっと居心地が悪くなった。

会話なんてもちろん何もない。だから余計に居心地が悪い。

でも、お兄ちゃんに言わないといけない事がある。きっと、その事については無視なんて出来ないと思った。


「お兄ちゃん…」


だから意を決してあたしはそう声を出す。言わなきゃいけない事だってある。兄妹だからそんなのどーでもいいじゃんって思ってたけど、筋を通さないとダメだと言っていた隼人の事を思い出した。