その手に触れたくて


「あー…美月っ、」


ガチャッと開けたドアの音とともに聞こえたのはママの声。

キッチンからパタパタとスリッパの音を立てながらあたしの所までやって来る。


「美月、どーしたの?具合でも悪い?」


心配そうに声を出すママはあたしの顔を覗き込む。


「あー…うん」

「早く帰ってきたら美月の靴があって、部屋覗いたら寝てたから。何?風邪?」

「そうみたい」


そう言って、あたしは冷蔵庫へと向かう。

中から飲みかけのポカリのペットボトルを取り出し、そのまま口に含む。


Γご飯は?」

Γあまりいらない」


持っていたペットボトルを手にしたまま気ダルそうに足を進め、ソファーに向かった。

…が、一瞬にしてあたしの足がピタリと止まった。


ソファーに寝転んでタバコを咥えているお兄ちゃんの姿。

その視線はテレビに向いていたけど、あたしの立ち尽くす姿に気付いたのか、目線を向けてきた。


あの日、お兄ちゃんと揉めてから会話もしていなければ会ってもいなかった。

まさか、こんなタイミングで出会うとは最悪だ。


こんな早くに居るなんて、当たり前に思ってはいなかった。面倒くさそうに立ち上がるお兄ちゃんはタバコを咥えたまま立ち上がる。

そして足を進めてあたしの横を通り過ぎて行くお兄ちゃんの背後を見つめると、お兄ちゃんはキッチンに向かい、また新たなビールを取り出して椅子に腰を下ろした。