その手に触れたくて


あまりにも衝撃すぎて、あたしの口からそれ以上の言葉が見つからなかった。


大丈夫?なんて言葉を掛けるほど見るからに全然大丈夫じゃない隼人に目が潤む。

そんな隼人を見ていられなくなったあたしは左手の甲を額に当て、視線を下に落とした。


あたしが口を開かなければ隼人も一向に口を開く事はない。


何で?何か言ってよ、隼人…

あたしが話せない分、それを隼人に求めるのは間違っているんだろうか。だけどあたしの口からは言葉が出なく、ただただ立ち尽くしたままどれくらいの時間が過ぎたのかも分からない時だった。


隼人がポツリと呟いた。



Γ…美月の…美月の兄貴が来た」


そう小さく呟いた隼人の言葉に耳を疑いそうになった。一瞬、何を言ってるのか分からなかった。だけど、その意味を理解した時、あたしはハッとし顔を上げた。


お兄ちゃんがここに?
何の為に?
隼人に何を?


隼人は視線を窓の外に向けたままであたしの方は一切見ずに、また口を開いた。


Γ…美月と…別れてくれってさ」


そう低い声で呟いた隼人は、ただただボーっとしてるだけで、そんな有りもしない言葉を聞いた途端、頭がフラッとし、あたしは左手で頭を支えた。


意味が分かんない。お兄ちゃんがここに来る意味が分かんない…

なんでそれを隼人に言うの?なんでそこまでして別れさすの?


少しの沈黙が過ぎた後、あたしはゆっくりと口を動かしたその瞬間、


Γまさかあの人が美月の兄貴だったとはな…」


そう低い声で呟いた隼人は表情を崩しながら軽く息を吐き捨てた。