その手に触れたくて


Γおい、こら行くぞ」


つっ立っているあたしに、お兄ちゃんは振り返りながら不機嫌な声を出し、あたしに視線を送る。


その眉間にシワを寄せたまま見てくるお兄ちゃんに思わずため息が零れた。

とりあえず帰らなきゃ、お兄ちゃんの機嫌を害なうばかりだと思ったあたしは渋々、足を進めた。


凛さんはどうするんだろう。家…隣なんだから一緒に帰ればいいのに。悠真さんだってどうするんだろう…

悠真さん、ちゃんと凛さんを送ってくのかな?

なんて事をお兄ちゃんの後を追いながらあたしは考えてた。


車に乗って家に着くまでの間、あたしはひたすら隼人の事を考えてた。

会いたい。
会いたい。
隼人に会いたい…


何であたし今、隼人じゃなくてお兄ちゃんと居てるんだろ…。居る場所が違うあたしは自己嫌悪に襲われてた。


家に着くと家の灯りは全て消えてて、お兄ちゃんが開けた玄関に足を踏み入れると、シン…とした静かさが何だか妙に気持ち悪かった。


リビングに入って行ったお兄ちゃんは電気を点けて椅子に腰を下ろす。

タバコを取り出して火を点けるお兄ちゃんを、ただただあたしはドアの横で呆然としたまま眺めてた。