Γ美月!!」


未だに理解ができないあたしに隼人の張り上げた声が飛ぶ。

その声にビクンと肩を震わせたあたしは勢いよく隼人の方へと振り返った。


Γ意味わかんない!!」


やっとの事で振り絞ったあたしの声は震えてて隼人をますます困らせる言葉だった。

素直に隼人の言う事を聞けばいいのだって事くらい分かる。だけど、今、この状況で一人で帰れって言われても分かんない。


Γ美月、頼む。この場から早く逃げろ」


そう言ってきた隼人に、何だか分からない身震いが身体を走った。


“逃げろ”

どう言う時にその言葉を使うのかだって分かる。危険が伴った時に使う言葉だって分かる。

だけど何でか知んないけどあたしの足は地面にくっついていて動こうともしない。

目からだって、熱い熱い何かが零れ落ちてきそうな勢いなのに…


Γ…隼人は?隼人はどうするの?行くの?ねぇ、隼人!!」


隼人の腕を揺すりながら何度も後ろを振り向く隼人に泣きそうな声であたしは問い掛ける。そんなあたしを隼人はグッと力強く抱きしめた。


Γごめんな。…なぁ、美月?」

Γ…ん?」


あたしのか細い声が喉の奥から微かに出る。


Γ絶対にここに戻ってくんなよ。何があっても戻ってくんな。寄り道せずに家に帰れ。…俺は大丈夫だから心配すんな」

Γ意味…わかんない…」

Γな、頼む。走って帰れ」


そう言った隼人はあたしの身体を離し、悲しそうな瞳を向け、うっすら笑う。

隼人が言った“大丈夫”なんて言葉。あたしには想定理解する事すら難しくて、何がどう大丈夫なんかが全く分からなかった。