その手に触れたくて


「そっ、美月って言うの。でさ、隼人!!」

「あ?…んだよ。」


隼人はちょっと不機嫌そうに呟き胸ポケットからタバコとライターを取り出す。

「…んだよ。じゃないでしょ。1時間目、美月に教科書借りたんじゃないの?」


夏美の響き渡った声が広がった後、隼人は口に咥えようとしていたタバコを離し、一瞬焦った顔つきをした。


「あっ、借りたのアンタだっけ?」

「…はい。」

「えっ、俺まだ返してなかった?」

「はい。まだ…」

「うわっ!!マジごめん。」


隼人は勢い良く立ち上がり手に持っていたタバコをズボンのポケットに突っ込んだ。


「いや…、始まる前でいいですけど」


足を進めようとする隼人の背中に声を掛けると、隼人はクルっと振り返って、

「マジ後でいいの?」

そう言ってくる隼人にコクンと頷いた。


「悪ぃな」


隼人はもう一度腰を下ろしてフェンスに背を付ける。

一度吸おうとしていたタバコをもう一度取り出し、口に咥えて火を点けた。