月と太陽の事件簿6/夜の蝶は血とナイフの夢を見る

そのうち警察がしのぶを狂人扱いする様にと、どんどん脚色してゆき、しまいにはあんな話になったという。

「まったく、頭おかしいのはどっちだっての」

あきれ返るあたしに対し達郎は

「そう言いながらも話に引き込まれてたじゃないか」

と意地の悪い笑みを浮かべた。

「あ、あれは横倉と東の話術が…」

そう反論しようとしたものの、説得力が伴わないのは自分が一番よく分かっている。

「じゃあ達郎はどう思ったのよ」

あたしは苦し紛れに聞いてみた。

「吉原しのぶは本当に自分が殺される夢を見たと思う?」

達郎はしばし考えてからこうつぶやいた。

「現実は夢、夜の夢こそ真実」

現実(うつしよ)は夢、夜の夢こそ真実(まこと)?

不思議な響きを持つその言葉に、あたしは呆気にとられた。

「なんなのそれ?」

「日本ミステリ界の大御所・江戸川乱歩が残した言葉だ」

達郎いわく、江戸川乱歩は生前サインを求められると、必ずこの言葉を書いたという。