月と太陽の事件簿6/夜の蝶は血とナイフの夢を見る

語り終えた東の顔から人なつこさは消えていた。

あたしは知らないうちに手のひらにびっしょり汗をかいていた。

あたしがこの話を直接きいたのはこれが初めて。

鬼気迫る内容とはこれのことだと思った。

隣の達郎に目をやると、唇を少し尖らせていた。

考えごとをする時にやる癖だ。

「それでその後、東さんはどうしたんですか」

達郎の問い掛けに対し

「夢中で走ってたら大通りに出たので、そこでタクシーを拾って店に行きました。逃げ込んだと言ってもいいかもしれません」

東は力なく笑った。

「あまりにも恐ろしくて、それを忘れようといつもより酒を飲んでしまいましたよ。後で社長からえらく怒られました」

「タクシーを拾ったのは何時ごろでしたか」

「よく覚えてませんが、たしか11時を少し回ってたかと」

達郎はその通りかと確認するようにこちらに視線を向けた。

あたしはうなずいた。

東が大通りでタクシーに乗ったのは11時5分。