月と太陽の事件簿6/夜の蝶は血とナイフの夢を見る

「愛する人になら、殺されても本望でしょう?」

その顔と声には深い陶酔の色が浮かんでいた。

東は目まいを覚えた。

夜の闇の狭間に捕らわれたような気分だった。

よく知っているはずの女性が、別の人間に思えてくる。

「どうして僕にそんな話を?」

やっとの思いで上の言葉を吐き出した。

「わかっているクセに」

しのぶは軽べつにも似た表情を浮かべた。

「久志くん。夢の中の男は貴方なのよ」

あり得ない告白だった。

あってはならない告白だった。

東はかすかに残った正気を必死にかき集めた。

「飲み過ぎです。酔っているんですよ、しのぶさんは」

だがこの言葉がなんの説得力も持っていない事を東はよくわかっていた。

ホストという夜の世界のプロである自分が、夜の蝶の魅力に捕らわれてしまっていた。