月と太陽の事件簿6/夜の蝶は血とナイフの夢を見る

「もちろん最初は恐ろしかったわ。でもね、何度も同じ夢を見るうちに不思議な気持ちになっていったの」

しのぶの告白は続く。

「しだいにあたしは、その夢の中の男に対して自ら喉を差し出すようになった」

しのぶは顎をゆっくりと反らした。

それによって磨きあげられた陶磁器のような白い喉が露になった。

その美しさに、東は思わず生唾を飲み込んだ。

「男の持つ銀色のナイフがあたしの喉を真一文字に切り裂き、真っ赤な血が飛び散る。その恐ろしいはずの瞬間を待ちわびるようになったの」

おどろおどろしい内容とは裏腹に、しのぶの声には底知れぬ淫猥な響きがあった。

「いったいなぜそんな気持ちに?」

東はそう訊かずにおれなかった。

「なぜって?…そうね、しいて言えば愛のなせる業かしらね」

「愛?」

「そう。いつしかあたしは夢の中の男を愛するようになったの」

美しい喉をさらしたまましのぶは言い切った。