「オレは好意を持ってくれた人をも裏切ってしまうんだな。って自分がどんどん嫌になっていって……」
真希の啜り泣く声に、かき消されないように鴨居は声を振り絞る。
真希は今にも耳を塞いでしまいたい、そんな気持ちを自制しながら鴨居の言葉に耳を傾けているのだ。
「だから……オレはどんどん真希を避けるようになった。真希を傷つけたくないから……って言い訳して本当は、ただ自分が傷つくのが嫌だったんだ。オレってば、最低だよな。」
ちょうど鴨居の話が終わる時に温かいコーヒーが運ばれてきた。
泣いている真希を見て、店員さんは心配そうな顔をした。
コーヒーの香り立つ湯気が目の前で泣く少女を霞ませていく。
この湯気と共に真希までがすぅっと目の前から消えてしまうのではないかと、鴨居は不安になった。
「でも…信じて欲しいのは、オレは真希のこと嫌いじゃないし、大川さんとのことも酔ってて記憶にないんだ。だから許して欲しいなんて都合の良いことは言わないけど、そこだけは信じて欲しいんだ。」
それを最後に二人の会話が止まる。
にぎやかな店内が余計に淋しさをあおるのだった。
すると、ふいに真希が席から立ちあがる。
涙でぐちゃぐちゃになってしまった顔を、ピンクの可愛いハンカチで隠そうとしていた。
「今までありがとう。私はトモ君のこと……本当に好きだったよ。」
小さな声。きっと最後の言葉を一生懸命に振り絞ったのだろう。
か細いその声は、騒つく店内の音を押し退けて鴨居のもとへ、鴨居の心へ強く響いた。
「真希……」
山下は走って店から出ていった。
鴨居はそれを茫然と見送るしかできなかった。
追い掛けることも、腕を取って止めることも、何も出来なかった。



