「いや……酒は飲んでないんだけどね。ちょっと午後から気乗りできない予定が入ってて。」

げっそりとした顔をうつむかせながら、鴨居は呟くようにそう言った。

「ふーん。コレ(女)関係の悩みですな?」

岡崎は小指を立てながら、にやりと不敵な笑みを見せる。

いくら男の子の様な外見だといっても、そこは女の勘とでも言うのだろうか、正確に言い当てられてしまう。

とはいえ、健全な女の子が女を小指で表すというのは如何なものだろうか。

そして鴨居も素直な男である。

そう言われた瞬間に身体をビクッと反応させ、大量の汗を吹き出させた。

「あ、当たりなんスね。だったら要先輩にでも相談すればいいのに。」

何気なく言った岡崎の言葉に、鴨居は尚更気落ちしてしまう。



そのことにも気付いた岡崎が今度は真面目に尋ねるのだった。

「先輩?要先輩と何かあったんスか…?」

「別に……」

素っ気ない返事をすると、鴨居はわずかに歩調を早めた。

すると体格の差もあり、鴨居と岡崎の距離がどんどん離れていく。

岡崎も始めは鴨居に追い付こうとしたのだが、鴨居のただならぬ様子を見て、一人にしてあげようと思い立ち止まる。


「カモ先輩は…笑顔が素敵なんだから、笑っていて欲しいのになぁ。」

悲しげな背中を見送る少女の気持ちを、鴨居はわずかながら知りながらも、ただ去っていくのだった。