鴨居は電話越しの相手に、違っていて欲しいと願いながら聞く。

「大川……さん?」

相手は少し笑うといつもの調子で返してきた。

「『美鈴ちゃん』だってばぁ。カモ君久しぶりだねぇ。」


鴨居は戸惑いながらも、酔った客でザワついている店内から外に出ていく。

杉宮は鴨居の様子にほんの少しだけ違和感を覚えていた。

外に出ると、夜風が酔いを少しだけ覚ましてくれる。

「何で君がオレの番号を知ってるのさ?」

大川と関わりたくなかった鴨居は、合コンの次の日にメールや電話の履歴を念入りに調べた。

しかし、大川とのやり取りはなくはなく。

おそらく連絡先の交換をしなかったのだろうと安心していたのだった。

しかし、実際にその人から電話がかかってきている。

鴨居は連絡先を知られた理由を聞いて背筋がゾッとした。

「カモ君が寝てる間にカモ君の携帯から私の携帯にワンコールしたの。そうすれば、こうして私からだけは着信履歴からカモ君にかけることができるってわけ。」

「なっ!?でも、オレはあの日電話の履歴だって確認したけど、誰とのやりとりもなかった。」

必死になる鴨居の声を聞いて、大川は冷たい声で笑った。

「はは。バカだなぁカモくんは。履歴なんて、いくらだって消せるじゃない。」

「なっ……」


鴨居はあの日、別れ際に感じた胸騒ぎの正体を少し分かったような気がした。


「そ…そんなの、はん…」

「犯罪じゃないのか…って?カモ君。私は悪質な取引をした訳でもないし、カモ君を脅そうって訳でもないのよ。ただ、カモ君と連絡を取りたかっただけなの。これって犯罪かな?」


しかしこれが、その胸騒ぎのほんの一部であることにこの時の鴨居は気付くよしもなかった。