「あたしは今年から、ここの英語の講師になった佐野明美だ。」

ぶっきらぼうな俺の質問に、その女性は淡々と答えてくれた。

屋根の上は二人がやっと座れるほどのスペースしかない。

俺は佐野という女性の隣に座った。

「俺は杉宮要、ここの一回生です。」

先生は吸い切った煙草を、持っていた携帯灰皿に入れる。

俺の位置からは携帯灰皿の中が見えた。

そこには灰皿いっぱいに煙草の吸い殻が詰め込まれていた。


無言のまま先生は新たに煙草を取り出してマッチで火を点ける。

彼女の赤い唇の間から白い煙が吐き出されていった。

「女の人が煙草を吸うのはあんまり良くないと思いますよ?」

俺がそう言うと、先生は静かに笑い、煙草を吸い続けた。

「元気な赤ちゃん産めなくなっちゃいますよ!!」

そう言って俺は、無意識のうちに先生から煙草を取り上げていたんだ。

先生は少し呆然としたが、俺から目を逸らして悲しい表情で呟いた。

「いいんだ。私には……子供を作る資格はないから。」