それは鴨居がようやく材木の加工に手を出すようになった時だった。

とはいっても、まだ廃材を使って鉋や釘打ちの練習をしている段階だ。

鴨居が釘を慎重に打ち込もうとした瞬間、鴨居の携帯が鳴った。

「もしもし。あ、お義父さん!!どうしたんですか?……え?メグが産気付いた!?」

信じられなかった。

メグの予定日にはまだ一週間もあるので、鴨居はまだだろうと安心仕切っていた。

「今から病院に行くんですね?はい……はい。仕事が終わり次第にできるだけ早く駆け付けます。はい、宜しくお願いします。」

心臓がバクバクと音を立てる。

自分が産むわけじゃないのに、慌ててしまうのを隠せない。

「鴨居おめぇ、嫁さんが産気付いたんか?」

急ぎの仕事を終え、休憩をしていた坂口が心配そうに見つめる。

「あ、はい。でも……仕事ありますから、終わってからすぐに行こうと思って。」

冷静に。そう自分に言い聞かせながら打ち込んだ釘は、面白いほど斜めになって木に亀裂を入れた。

「おーい、ハマさーーん。」

あからさまに動揺している鴨居を見て、坂口が大声で濱田を呼んだ。

事務所からのしのしとやって来た濱田。

「なんじゃい坂口?」

「鴨居の嫁さんが産気付いたって連絡が入ったんだとよ。」

しばらくフリーズする濱田。

鴨居は黙々と斜めの釘を打ち続けている。

「坂口おめぇ、産気付いたってあの産気付いたのか?」

「らしいですよ?」

「なぁあにぃぃっ!?」

あまりの驚きに慌てふためく濱田。